Adagio様より朝比奈隆さんの遺した
ベートーヴェン交響曲全集では、どれがベストかと
いうご質問をいただきました。ありがとうございます!
結論を先に申し上げますと、やはり一番最後のものが最高ではと、思います。
つまりオクタヴィア/エクストン・レーベルのものです。
朝比奈さんは若いときは、けっこうロマンに満ちた演奏をしていたし、恩師メッテルゆずり
の
チャイコフスキーなどではその地が出ます。
ブラームスなんかもそうです。けっこう自在
にやっていました。でも、
ベートーヴェンは常に自らの芸術の最高の指標としていて、「愚直
なまでに楽譜通りにやろう」としたのでした。
それはベルリンでフルトヴェングラーに会った時、
ブルックナーを振るといったら、
「オリジナル楽譜でやれ」と巨匠から言われたこと。それと評論家、宇野功芳さんにベートー
ヴェンの重厚な演奏を激賞されたこと。この2つがキーポイントになっていると思います。
弦のボウイングを徹底してやるリハーサルから、ドイツ的重厚でありつつも、豊かでみずみず
しい響きを生んでいました。
その彼が最も敬愛した
ベートーヴェンは史上最多の7回の録音を残し、今後ともこの記録は
敗れないでしょう。
第1回の学研盤は、1970年の録音がちょっと鈍く寸詰まり。テンポも重厚で昔のライプツィヒ
みたいな音で楽しめません。第2回目1970年代後半のステレオ、第3回の1980年代デジタルは
ビクターですが、後になるほどオケの響きがよくなりうまくなっています。
この頃から楽譜通り、全リピートを忠実に履行する朝比奈サウンドが確立します。
そしてフォンテックとの4回目の新日本poとの録音は、オケがより重厚で分厚いですが、細部の
解像度がやや甘く暗いイメージ。合唱でのコーラスがひっこんでいるのも惜しいところ。
映像はパイオニアよりLDで出ていたものが、今回の書籍でその一部抜粋を初DVD化。
この新日本POとのは映像のほうが感銘を受けますので、ぜひ書籍にてご覧ください。
1990年代に入ると、ポニーキャニオン凄腕プロデューサー、江崎さんの目に氏の真摯な芸術が
留まります。その5回目の全集は、朝比奈をして「これが結論」と言わしめた立派なもの
でしたが、さらに6回目も入れます。この6回目こそ、ほぼ理想の響きで、ティンパニも硬く
鮮明、全てがとてもみずみずしくしなやかに響いていて、すごく安心です。
「英雄」第1楽章のコーダのトランペットは高く吹かせず、楽譜通りを遂行。
朝比奈も「やっぱりこっちのほうがいいですな」と納得。
これで終わりと思ったのですが。。。
江崎さんはキャニオンを独立して自社レーベルを立ち上げます。それがエクストン。
2000年(死の年)から江崎さんとしては3度目の
ベートーヴェン録音を始めたのでした。
オケは最高の響き。録音は少し柔らかく分厚い感じに。
驚くのは「英雄」で再びトランペットは慣例の吹かせ方復活。最後には好きなようにやった
朝比奈さん。あのトランペットだけでも長い研鑽と葛藤の上で、慣例に戻った氏の思いは?
2001年12月29日の
ベートーヴェンの第9の演奏会。
本来なら朝比奈さんが振れば252回目となる第9が代理の指揮者で演奏されている最中、
氏は静かに息を引き取りました。
きっといまも天国では
ベートーヴェンを指揮し続けていることと信じています(~^)